第7章 ボディ・ランゲージ
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「コミュニケーションの90%以上は非言語だ」という解釈は間違いである
注
けれどもその通念がなおも繰り返されている理由は、ひとつにはいくらか真実が含まれているから
コラム7「ボディ・ランゲージ」
本書で「ボディ・ランゲージ」と述べる場合は、腕の動きや体の位置だけでなく、もっと一般的に「非言語コミュニケーション」全体を指すものとする。実際、本書ではそのふたつをほぼ同義語として扱っている。その概念には、顔の表情、目の動き、接触、空間の利用、そしてまた言葉以外の声で行うことすべて、すなわち抑揚、声色、大きさ、語調などが含まれる(Navarro, 2008) 非言語スキルの重要性はごく幼い子どもにも見られる
たとえば、60人の幼稚園児を対象にしたある調査では、大人と子供両方の写真から感情を読むことが上手な園児ほど、同級生のなかで人気が高かった
もちろん気づいている場合もあるが、話し言葉で伝えるメッセージとは比べ物にならない
ほとんど意図することなく、わたしたちは必要に応じて手足や胴体を器用に動かし、意味ありげな表情を浮かべ、ここぞというときに笑い、適切な距離を開け、声のトーンを変え、相手と視線を合わせたり外したりする
さらには他者のそうした動きすべてを読み解き、それに反応している
物理学から心理学に転向したレナード・ムロディナウは著書『しらずしらず あなたの9割を支配する『無意識』を科学する』で述べている 「ほとんどとは言わないまでも、多くの非言語シグナリングとシグナルの解釈は自動であり、意識と制御のおよばないところで実行されている」(Mlodinow, 2013) たまたまいくつかのボディ・ランゲージに気づいていないだけではなく、無意識に行動するほうが適切だと感じている ボディ・ランゲージが意図的な行為になるとわざとらしく感じられ、気持ち悪くなることさえある
自分自身のボディ・ランゲージを自覚していないことにくわえて、わたしたちは、程度の差こそあれ、他者が体で示していることにも気づいていない
「受け手側に意識的分析プロセスがないのに、これほどたくさんの表情の細かいニュアンスが瞬時に理解されるという事実は、しばしば興味深く感じられる」
わたしたちは一般に他者のボディ・ランゲージの大まかな意味には気づくが、自分の印象に残った行動を特定することができずに苦労することが多い
なぜそうしたシグナルにほとんど気づかないのだろう
意識はまた狭すぎる
わたしたちは一度にほんの数えるほどのものごとにしか注目できない
しかし、たとえば人混みのなかを塗って歩くためには、わたしたちの脳は数十、数百、数千ものものごとを監視する必要がある
そのような仕事ができるのは無意識だけ
これらは答えの一部でしかない
意識はリアルタイムでボディ・ランゲージを管理できないと認めるとしても、意識がほとんど知らないままでいることの説明にはならない
なぜ心のなかの意識の部分が体のやろうとしていることを初めから無視しているように見えるのかを説明するためには、もっと包括的な答えが必要
人間が戦略的にボディ・ランゲージに目をつぶるのは、それがしばしば醜く、身勝手で、他者に負けまいとする動機をさらけ出してしまうからである
コラム8 シグナル(Signal)とキュー(Cue)
クジャクの尾は送り手の雄の健康と適応度に関する情報を一羽あるいは複数の雌に伝えており、そのシグナルを交尾の相手を探すために利用することで双方が利益を受ける
キューは送り手が隠したいと思っている情報を伝達することがある
それ以外にキューには、神経質になっていることを示す汗ばんだ手のひら、体力を消耗してあえいでいるときの息切れ、不安や不快感の表れである首をこするといった感情を鎮める行動などがある(感情を鎮める行動についてはNavarro, 2008) 正直なシグナル なぜ行動は言葉よりも雄弁なのか
ボディ・ランゲージは言語とは少なくともきわめて重要な一点において異なっている 話し言葉では、言葉と意味のあいだの対応づけは一定ではない
一方、ボディ・ランゲージはほとんど不随意である
任意であることが多く、文化によって異なる、故意のジェスチャーは例外
親指を立てるジェスチャーは、いくつかの国では英語圏の中指を立てるジェスチャーと同じ意味を持つ(Axtell, 1997) 非言語行動は意味としても機能としても伝えられるメッセージと関連づけられている
関心があることを伝えるためには目を閉じると勝手に取り決めている社会はない
なぜなら、関心のそもそもの意味が注意をはらい、多くを知ろうとする欲求を意味するためだ
集中するために目を閉じるなど、こうした例に小さな例外があることは間違いないが、全般的な原則は十分わかるだろう
要するに、ボディ・「ランゲージ」は単なるコミュニケーションの方法ではない
しっかりした機能を持ち、実質的な結果をもたらすもの
そして、結果をもたらすという意味で、ボディ・ランゲージは言葉よりも本質的に正直
シグナルにはごまかしの利かない高コストが必要
雄のコアラが雌のコアラを引きつけるために用いる求愛鳴きを考える 体格がよく健康な雄は太くて大きな鳴き声で頻繁に鳴くことができる
大きな雄は体腔が大きいからでもあるが、小さくて弱い雄に比べてライバルや捕食動物をおそれなくてすむからでもある
したがって、大声で頻繁な求愛鳴きには、「差別的に高いコスト」がかかっている
たとえ大きくて健康な雄でも捕食されるリスクがあるので、その行動を示すだけで高くつくが、小さくて弱い雄にとってはさらにコストが高くなる
そのためこうした求愛鳴き行動は間違いなく正直な行動であり、雌はその行動を交尾相手に選ぶための信頼できるシグナルとして安心して用いることができる
人間の世界に戻ると、わたしたちの正直なシグナルは多くのボディ・ランゲージに隠されている
たとえば、腕を広げて胸を見せる姿勢は攻撃に対して無防備であるため、穏やかな状況より張り詰めた状況で危険が増す(すなわちコストが高い)
ゆえに、胸を見せる姿勢は安心感を示す正直なシグナルである
同様に、相手から脅威を感じる時に抱きしめると危険であるため、抱擁は間違いなく信頼と友情の正直なシグナルである
つまり、この正直という特性があるからこそ、ボディ・ランゲージは重要な活動を調整するにあたって最適な手段となる
言葉ではあまりに容易にうそをつくことができ、またその誘惑にかられやすい
そこで生、死、そして生殖がかかっているとき、わたしたちはしばしば黙って体に話をさせる
性
言語の獲得の何百万年も前から交尾していることを考えれば、このきわめて大事な行為をとりまとめるためにボディ・ランゲージを用いていることは何ら驚くにあたらない
性交そのものにほとんど言葉がいらないのはもちろんだが、ふざけあったり、挑発したり、恥ずかしそうにしたり、誘惑したりするなど、そこへ到達するまでの成り行きの多くも同じ
どの文化にも性的な節度を守る規範がある
こうした規範は平和を保つために必要不可欠だ
それでもなお、人は自分が望むほど内密ではないところで性の交渉をして、節度の規範をなんとか迂回する方法を探そうとする
お決まりの一夜限りの情事を思い浮かべてみよう
アリソンとベンはバーで初めて出会って、最後には一晩ベッドをともにすることになった
ここで関心のある問題は次の二つ
どのようにその関心を相手に伝え、一緒に家に向かうよう取り決めるのか
いかにしてふたりはたった数時間のうちに赤の他人から恋人動詞に変化するのか
ふたりがいくつかの明白なメッセージを伝え合う可能性はある
視線
目を用いる行動は特に第三者に気づかれにくいため、人目を忍んだシグナルの利用に最適であることを知っておくとよい
視線は「その先に進んでもよい」というボディ・ランゲージで補われる
会話においてさえ、アリソンとベンがたがいに口で言っていることは、体のやりとりに比べたらたいして重要ではないかもしれない
体を近づけ、赤の他人なら踏み込むことをためらうような、個人的な空間の境界を破る(Hall, 1966) Hallは距離を4つに区別している
求愛のスリルとドラマの多くは、相手の複雑なシグナルを読むことが難しいところにある
デート中のカップルは手をつなぐ、肩を抱くなど、パートナーに対する恋愛関係のシグナルとして「結ばれているしるし」を用いる事が多い
このようなシグナルはたがいのためだけでなく、潜在的なライバルに向けられたものでもある
ある研究チームが映画のチケットを買うために並んでいたカップルに近づいて質問を行ったところ、質問する側が恋愛の脅威になる姿勢を示した場合、つまり女性ではなく男性が質問したり、あるいは一般的な質問ではなく個人的な質問をしたりすると、カップルの男性が結ばれているしるしを多く示すことがわかった(Fine, Sitt, & Finch, 1984) コラム9 愛は宙に舞う?
フェロモンは動物の個体が別の個体の行動に、多くの場合は鼻を介して、影響を及ぼすために分泌する化学的なシグナル これはアリやミツバチからブタやイヌまで、多くの種にとって重要なコミュニケーションの仕組みであり、性的魅力の役割も果たす事が多い たとえば農家は雌のブタを交尾可能な状態にするためにフェロモンを用いることがある
人間の魅力に置いてフェロモンはどのような役割を果たしているのだろう?
この分野の研究は思うように進んでいない
科学者はこうした効果が特定のフェロモンによるものかどうかを議論しているが、人間の魅力には少なくとも何らかの化学的根拠があり、その効果が大部分において無意識であることは明らかである(Zhou et al., 1995) 政治
ボディ・ランゲージが驚くほど中心的な役割を担っているもうひとつの領域は「政治」 信頼、忠誠、リーダーシップ、支持はもちろん、不信、裏切り抵抗を伝えるものとして、非言語コミュニケーションは人間の同盟関係を調整するための表現豊かなツールとなっている
性の非言語コミュニケーションと同じように、政治のそれは古くわたしたちの祖先にまで遡る
しかし、わたしたちは、軽く叩いたり、なでたり、抱きしめたり、握手したり、肩を掴んだり、親しみを込めてたがいの頬にキスしたりもする
その論理は他の霊長類の社会的グルーミングの根底にあるものと同じ
周囲にいる他者の存在を気持ちよく受け入れている場合には、相手に触れ、また触れられることを許す
もちろん、政治的な意味合いを帯びるボディ・ランゲージは、接近と接触よりはるかに広範囲にわたっている
たとえば脅威を察知すると、わたしたちは自然に警戒し、身を守る姿勢を取とる
背中を丸めて腕で体を抱きかかえるようにする
事態が悪化したらすぐに立ち上がれるよう、前かがみに座って足をしっかりと床につける
それとは対照的に、気の置けない友人といるときには警戒を緩めて、手のひらを見せたり、肩をリラックスさせて首を丸見えにしたりして、無防備な姿勢を取る
連邦捜査局の捜査官でボディ・ランゲージの専門家であるジョー・ナヴァロ「いつも感じていたのだが、大統領がよくポロシャツを着てキャンプ・デーヴィッドに行くのは、およそ64キロメートル離れたホワイトハウスでスーツを身に着けてはできないと思われることをするためだ。(上着を脱いで)前面をあらわにすることで、大統領は『わたしはあなた方を信用している』というメッセージを送っているのである(Navarro, 2008)」 私たちはまた、目を使って政治的なすり合わせも行っている
緊張状態になると、文字通りリーダーを仰いで指示を待つ
反応を見て、場合によっては指図に従うため
より一般的には、ダンスフロアでの動きのまねから、宗教儀式によくある呼びかけと応答の手順にいたるまで、他者の行動に追随するという行為はみな、リーダーの指導力を示している
たとえば、現代の職場なら、会議の終了を呼びかけるのはほぼ決まって上司で、場合によっては最初に席を離れるのもそうだろう
上司が解散のシグナルを出す前に部下が立ち上がって出ていくのは非礼に当たる
誰かに反抗する時は、文字通りでなくとも比喩的に「背を向ける」
秘密を打ち明けるときは「心を開く」
友人や家族は「温かく」て「近しい」が嫌いな人は「鼻であしらう」
対立する時は「足で踏ん張り」、そうしないと「地歩を失う」
ボディ・ランゲージはすでに抽象的な意味になっている多くの言葉の語源も示している
手を握る、手に接吻するという、ふたつの挨拶の儀式を対照比較するとわかりやすい
どちらも信頼と愛情の仕草だが、政治的な意味合いが異なる
握手は対称で基本的に平等主義
一方で手のキスは本質的に非対称で、キスをする側は受け手より低い地位に置かれる
最後にもうひとつ政治的な非言語コミュニケーションの例
夕食で、肩越しに背後を見てから、前のめりになって小声を話す
これは秘密だという非言語の合図
もしその発言が知られてしまったら自分が痛い目に合う可能性があり、そのような話ができるくらい君を信用しているよとあなたに伝えている
社会的地位
「ふいに、すべての抑揚と動きが地位を示し、いかなる行動も偶然ではなく、本当に『動機がない』ことなどないとわかった。それはひどく滑稽だったが、同時に大きな不安を抱かせた。わたしたちのひそかな企みがすべてあらわになったのだ」 キース・ジョンストン わたしたちの体が送受信している全シグナルのうち、もっとも気づきにくいのは社会的地位に関するもの しかも、わたしたちはみな徹底的に地位にこだわっていて、それを手に入れ、評価し、守り、見せびらかすために多大な努力を費やしている
恵まれた立場にいる地位の高い人間は、社会状況をあまり心配せずにすむ
そうした人々が攻撃される可能性は低く、たとえ攻撃されたとしても誰かが助けにくるだろう
そのためリラックスしたボディランゲージを維持できる
一方で、社会的地位の低い人は脅威はないかとつねに状況を監視する必要があり、自分より地位の高い人間の決定にいつでもしたがえるように構えていなければならない
その結果、彼らはあたりを見回し、ためらいがちに話し、用心深く動き、防御の姿勢を維持する
地位の高い人間はまた、自分に多くの注意を集めようとする
これこそ正直なシグナルの真髄
自分に注目を集めると攻撃を受けやすくなる
したがって、自分で身を守れるほど強くない限りそれはできない
人間の世界では警戒色は、様々な行動の下に隠れている
明るい色の服、きらきら光る宝石、歩道でコツコツと大きな音を立てる靴
聖職者用の目立つ襟、頭にかぶるもの、手の混んだ髪型、ラジカセを鳴り響かせながらふんぞり帰って通りを歩くことなどはすべて、「自分は強いので、注目が集まってもこわくない」という同じ意味を持っている
しかしながら、地位は単なる個人の性質や態度ではなく、基本的には他者との関係にあわせて調整する行動
そのあいだ、地位の低い人はたいてい、各方面で地位の高い人の意見にしたがい、物理的にも社会的にも相手に余裕を与える
殆どの場合、こうした無意識の地位交渉は順調に進む
けれども、自分たちの相対的な地位について意見が合わないと、非言語的調整がたち行かなくなり、結果として社会的にぎこちなくなる
そのなかでも特に無意識に行っている行動は、会話相手の地位に応じていかに声のトーンを変えるかということ
ある研究ではシグナル処理技術を用いて、テレビのトーク番組『ラリー・キング・ライブ』の25回のインタヴューを分析した
同様の分析はアメリカの大統領選挙の結果予測にも成功している
第一章に登場したアラビアヤブチメドリと同じように、人間でも、地位は二つの異なるもの、つまり支配と名声の形をしている 支配は攻撃や罰などを用いて力で勝ち取るもの
「名声」は印象に残ることをしたり、印象的な特徴を持つことで得られる地位 名声のある人を取り巻くわたしたちの行動は、「接近」本能の影響を受けている
対話ではその場に影響を与えている地位の種類に応じて、参加者は異なるタイプのボディ・ランゲージを採用することになる
とりわけ視線の合わせ方で顕著になる
支配の影響を受けている状況では、視線を合わせることは攻撃行為とみなされる
ゆえに、好きなように他者を見つめることができるのは支配者の特権であり、服従する側は支配者を直接見つめることは慎まなければならない
支配者と服従者の目が合ったときは、服従者が先に目をそらさなければならない
見つめ続けると真っ向から挑戦していることになる
しかし、服従者は支配者をまったく見ないわけには行かない
たとえば道を開けるためなど、支配者が何をしようとしているのかをよく見ている必要がある
個人に関する情報が重要な資源であり、それを支配者が独り占めしようとしていると考えることもできるだろう
名声の影響を受けている状況では、目を合わせることは恵みである
だれかを見つめると、見つめられた人の気持が高揚する
この場合、情報ではなく注目が重要な資源であり、地位の低い者は地位の高い有名人に好きなだけ注目を与えられる
むろん多くの対話には支配と名声の両方が関わっており、地位は人間が生きていくうえでもっとも難しい領域のひとつになっている
たとえば、CEOのジョーンが会議を開くとする
大抵の場合、CEOはその部屋の中で最高位の支配者絵あると同時に最も名声の高い人物でもある
そこで彼女の部下はその場に応じて、どのような視線の合わせ方が適しているかを判断しなければならない
ジョーンが話す時は暗に注目が求められ(名声)、ジョーンが話をやめたら、部下は彼女を支配者として扱うことに戻り、支配者のプライバシーを侵すことをためらう服従者の特徴にしたがって、ジョーンをちらりと盗み見しながら、会議中に起きているものごとに対しるジョーンの反応を推し量ろうとする
社会的地位は、話を聞くときだけでなく、話をするときの視線の合わせ方にも影響を与える
実際、支配を予測する最適な方法の一つは、「聞いているときの視線合わせ」と「話しているときの視線合わせ」の比率を見ること
話すときも聞くときも同じ時間だけ視線を合わせたのであれば、その視覚支配率は1.0となり、優位性が高いことが示唆される
ムロディナウは著書『しらずしらず あなたの9割を支配する「無意識」を科学する」で以下のように結果をまとめている(Mlodinow, 2013) このデータの驚くべきところは、わたしたちが無意識のうちに階層における自分の地位に適した注視行動になるよう調節しているばかりか、一貫して、そして数字の上でも正確にそれを行っていることである。データのサンプルをあげよう。
また、心理学入門講座の大学生の場合、高校の先輩だけれども大学へ進学しなかったと思われる人物と話すときには0.92だが、有名な医科大学院に合格した大学の化学の優等生と思われる人物と話す時は0.59だった。(Exline et al., 1980) 専門知識のある男性が自分の専門分野について女性と話す時は0.98だが、男性が専門知識のある女性の専門分野について話すときは0.61である。専門知識のある女性が専門知識のない男性と話す時は1.04だが、専門知識のない女性が専門知識のある男性と話すときは0.54だった。(Dovidio et al., 1988) これらの調査はすべてアメリカ国内で実施された。文化によっておそらく数字は異なるだろうが、現象はたぶん同じだろう。
人間の脳はこれらすべての行動をほぼ無造作にやってのける
なぜならそうしたことに熟達していたわたしたちの祖先が、そうしたスキルを持ち合わせていなかった(非)祖先よりも、うまく暮らすことができたからである
なぜボディ・ランゲージに気がつかないのか
これほどまで多くの非言語シグナリングが意識の外側で発生しているのはなぜだろう
本章で検討してきた3つの社会生活、性、政治、地位は、わたしたちの行動を制御する規範に締め付けられている 性に絡む嫉妬、同盟政治、地位争いは、それを規制しない集団に大きな破壊をもたらす可能性がある
それぞれの領域で誰かが成し遂げたいと思っていることは、他者の利益と一致しない事が多いため、容易に争いになりかねない
そのため社会には、そうした領域における行動を統制するたくさんの規範があり、わたしたち個人個人は苦労して自分の行動が目立たないようにしている
コミュニケーションの手段として、ボディ・ランゲージはまさに必要とされる隠れ蓑を与えてくれる
ボディ・ランゲージ全体の「パターン」は同じかもしれないが、それぞれの動きはさまざまに解釈することができる(Knapp, 1972) そうしたあいまいさは、特に自分の意図を他者から隠したいときに、短所というよりむしろ長所になりうる
話し言葉によるメッセージと比べると、非言語メッセージは明確にすることが」はるかに難しいため、不正だと非難されるのを容易に避けられる
本人も自分のしていることがよくわかっていない可能性さえある
もし心の奥底を注意深く覗き込んだなら、おそらく頭の裏に潜んでいるそうした動機に気づくだろう
だがなぜわざわざそれに注意を向ける必要がある?
「報道官」がそうした動機を知らなければ知らないほど、自信を持って否定することが容易になる
そしてそのあいだ、脳の残りの部分が自分の私利私欲をうまく調整してくれる
ボディ・ランゲージはまた、話し言葉に比べると、第三者に伝えにくいという点で目立ちにくい
これこそが非言語コミュニケーションの魔法である
他者との調整が必要なものも含めて、わたしたちが不正な目的を追い求めることを可能にし、それと同時に規範に違反していると攻撃され、告発され、陰口を叩かれ、非難されるリスクを最小限にする
わたしたちは、そのため自分で自分のボディ・ランゲージを戦略的に無視し、また子どもたちにボディ・ランゲージを教えることに消極的になる
他にも理由があることは疑いようもない
ボディ・ランゲージ以外にも、社会スキルは正式なカリキュラムで無視されている傾向にある くわえて、子どもに非言語コミュニケーションを教えると欺瞞への扉を開くことにもなる
基本的な原理を理解さえすれば、ボディ・ランゲージを使って、相手を騙して自分の意図する方向へ導くことができるからだ
仇敵に囲まれているのに胸を見せる姿勢を取り続けるのがその一例
当然のことながら、すべての非言語メッセージがこのようにタブーになっているのではない
まぶたのたるみ、ガッツポーズ、笑顔の意味は誰もがよく知っている
ところが誰かが性、政治、地位に関連したボディ・ランゲージを指摘した途端、わたしたちは人目を気にして口ごもり始める